近年、地球温暖化の深刻化や異常気象の頻発化を受け、私たちが目指す目標として「カーボンニュートラル」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。ですが、カーボンニュートラルが具体的に何を指しているのかわからないと感じる方も多いのではないでしょうか。実はカーボンニュートラルの実現には、SDGsが目指す持続可能な社会と大きな関連があるのです。この記事では、カーボンニュートラルとSDGsの関連や実際の取り組みについてわかりやすくご紹介します。カーボンニュートラルとは?カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることです。「カーボン」は炭素、「ニュートラル」は均衡・中立を意味し、ここで言う「カーボン」は炭素が含まれる二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを指しています。カーボンニュートラルの実現のためには、温室効果ガスの排出量を削減し、そして吸収作用を高める必要があります。カーボンニュートラル実施への背景カーボンニュートラル実施が勧められる背景には、深刻な地球温暖化があります。地球温暖化の原因は、二酸化炭素・メタン・一酸化炭素・フロンガスなどの温室効果ガスです。この中でも二酸化炭素は最も地球温暖化への影響が大きいのですが、人間の生活や経済活動によってその排出量は大幅に増加してしまいました。石炭・石油のような化石燃料の消費が増加したのに対し、大気中の二酸化炭素を吸収できる森林が減ってしまったため、大気中の二酸化炭素濃度が増加しているのです。温室効果ガスが地球の周りに溜まって濃度が高まると、太陽から地球に届いた熱が宇宙へ戻らず気温が上昇するため、地球温暖化につながります。温暖化は気候変動や猛暑のリスクを高め、農林水産業や自然生態系から日常生活まで幅広く悪影響を与えてしまうのです。このような危機を止めるためには、温室効果ガスの排出量をゼロにするカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが不可欠です。SDGs17の目標の中で何番に関連してる?最近話題になることが多い「SDGs」をご存知ですか?SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。将来世代のニーズを損なうことなく今の世代のニーズを満たすために、格差・経済・環境など複数の問題にまたがって17の目標を掲げています。カーボンニュートラルはそのうち4つの目標と密接に関連しているのです。目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」SDGs目標7では、誰もが平等に、安定してエネルギーを使える状況にすることや、再生可能エネルギーの割合を大きくすることを目的としています。再生可能エネルギーは、太陽光や風力・水力・バイオマスといった自然の力から生み出されるエネルギーで、発電時に二酸化炭素を排出しません。カーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーを活用しつつ従来のエネルギー供給のあり方を見直す必要があります。これにより目標7の達成にも貢献できるのです。目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」目標9では、技術革新で産業の発展を推進することを目指しています。日本では、2020年度のCO2排出量のうち37パーセントが産業部門からの排出でした。産業のあり方を見直すことで、全体的なCO2排出量を大幅に減らすことができるのです。目標9では詳細な方針として、「クリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大」が挙げられています。産業発展を推進すると同時に、開発や製造の過程における温室効果ガスの排出量削減を進める必要があります。目標12「つくる責任つかう責任」目標12が目指すのは、持続可能な生産消費形態の確保や資源の使い過ぎの防止です。食品ロスの削減が取り組みとしてあげられることが多い目標ですが、エネルギーも重要な資源の一つとして持続可能な利用が求められています。例えば、石油・石炭・天然ガスなどのエネルギーは無限に使うことができないので、使い過ぎを防ぐ、または無限に使うことができるエネルギーで代用する必要があります。エネルギーの生産・利用に責任を持つことは、カーボンニュートラル実現への取り組みと重なるのです。目標13「気候変動に具体的な対策を」目標13では、温室効果ガスを削減して気候変動・地球温暖化の解決に取り組むことが目的とされています。カーボンニュートラルと最も密接に関わる項目であるといえます。2015年のパリ協定において、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く、できれば1.5℃までに抑えようという目標が掲げられました。地球温暖化を防止するためには、温室効果ガスをゼロにするカーボンニュートラルの取り組みが不可欠です。カーボンニュートラル実現への取り組みカーボンニュートラル実現のためには何をすればいいのか、具体的な取り組みを見ていきましょう。再生可能エネルギーの活用再生可能エネルギーには、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスなどがあります。化石燃料とは異なり温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることが特徴です。これほどのメリットがある再生可能エネルギーですが、欧州と比較すると普及が遅れているのが現状です。電力を安定して供給できない、コストパフォーマンスが悪いなどのデメリットがあるためだと考えられています。特に発電にかかるコストは欧州と比較して2倍ほど高いのです。 経済産業省は2020年の再生可能エネルギーの電源比率である19.8%を、2030年には36-38%まで高めることを目標にしています。まずはこれらの課題の解決方法を探しつつ、政府や企業が率先して導入拡大を進める必要があります。省エネルギーの推進省エネルギーとは、限りあるエネルギー資源を効率よく使うことです。略して省エネと呼ばれています。エネルギーの使用を削減することで、日本政府が掲げる「2030年までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減する」という目標に大いに貢献することができます。日本では1979年に「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)が制定されて以来、企業や工場でエネルギー使用量の削減が進められてきました。家庭単位でも省エネ化により世帯別のエネルギー消費量は2010年代に入って減少していましたが、コロナ禍に入った2020年以降は上昇しているのが現状です。家庭における二酸化炭素排出量を見ると、約半分を電気が占めており、個人で省エネを進めるためには電気の使い方を見直すと良いです。節電するだけで推進することができる身近な取り組みなので、できるところから始めてみましょう。ゼロエミッションの推進ゼロエミッションとは、廃棄物の排出(エミッション)を最終的にゼロにするという考え方です。具体的には、ある産業の廃棄物を別の産業が有効的に再利用することで、廃棄物の埋め立て処分量をゼロにするというものです。ゼロエミッションは温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという意味でも使われ、再生可能エネルギー・原子力発電は温室効果ガスを排出しないゼロエミッション電源と呼ばれてきました。ですが原子力発電は、安全性や放射性廃棄物の危険性といった問題から持続可能とはいえません。そこで、可能な限り原発への依存度を低減しつつ、再生可能エネルギーの供給量を増やすことが必要です。カーボンオフセットの推進カーボンオフセットとは、自分自身が排出した温室効果ガスの排出量を、別の取り組みで相殺(オフセット)することです。再生可能エネルギーの活用や省エネ活動などはカーボンニュートラルへの有力な近道ですが、CO2のような温室効果ガスには努力してもどうしても削減できない排出量がありますね。そこで、温室効果ガスの排出削減や吸収量の増加を支援することで、自ら排出してしまった分の温室効果ガスを埋め合わせることがカーボンオフセットです。まずは自らの温室効果ガスの排出を認識し、他の企業が開発する高効率機器や再生可能エネルギーの導入によってこれを埋め合わせることで、カーボンオフセットを推進することができます。森林の二酸化炭素の吸収量を増やすプロジェクトの実施や、そうした活動への投資もカーボンオフセット推進のための取り組みです。カーボンリサイクルの推進カーボンリサイクルとは、温室効果ガスの中でも特にCO2を炭素資源と捉え、有効利用することです。二酸化炭素排出が避けられない場合、別の取り組みで相殺(オフセット)するだけでなく、資源として再利用する技術開発が進められています。具体的には、二酸化炭素を植物に供給・ドライアイスに活用などして直接利用したり、合成燃料・コンクリートのような別の物質に変換したりする方法があります。そのために、工場や火力発電所で発生する気体からCO2を分離したり、別の物質に合成する技術の開発が進められています。カーボンニュートラル実現への企業の取り組みトヨタ自動車(画像:実質的にカーボンニュートラルを実現するクルマ、販売開始!)トヨタ自動車は、事業活動による環境負担の軽減を目的とする「トヨタ環境チャレンジ2050」を2015年に発表しました。このチャレンジの一環として、トヨタはカーボンニュートラル実現のために「新車CO2ゼロチャレンジ」に取り組んでいます。具体的な目標は、新車開発において、2050年に販売される新車の走行時のCO2排出量を2010年比で90%削減するというものです。さらに、グローバルに展開する生産工場で、CO2の排出量が少ない生産技術の開発・導入拡大に取り組んでいます。今後新設する工場では、自動車生産1台を製造するのに排出するCO2量を、2030年に2001年比で3分の1にすることがこの取り組みの目標です。スターバックス(画像:スターバックスが掲げる、コーヒーに関する環境目標)コーヒーチェーン店のスターバックスは2020年、CO2・水・廃棄物のフットプリント(環境に与える負荷)を半減させるという目標を発表しました。そのために、スターバックスは世界30カ国のコーヒー農家と協力し、各農園の土壌に合わせてコーヒー豆生産で排出されるCO2を削減しています。例えば、それぞれの土地の気候に合わせたコーヒー豆の品種を開発することで、ビニールハウスの温度調整など電力が必要な栽培技術をカットしているのです。また、コーヒー生産国の森林の保全・復元プログラムに投資して、植林と農作物の栽培を同じ土地で行う混農林業に取り組んでいます。CO2排出を削減するだけでなく、森林による吸収を助けているのです。ダイキン(画像:ダイキンが「EUの環境規制」に見る大チャンス)ダイキンはエアコンの環境負荷を抑えるため、2019年を基準として2030年のCO2排出量を50%以下に、さらに2050年には実質排出ゼロを目指しています。そのためにダイキンは以下の空調技術を取り入れています。・インバータ技術室温に合わせて室外機のモーターの回転速度を変える技術です。室温を継続して一定に保つことができる上に、 50%以上の省エネ効果があります。・低温暖化冷媒エアコンの室外機と室内機を循環して熱を運ぶガスのことです。従来のガスと比較してオゾン層への影響が低いため、環境への負荷を減らすことができます。・ヒートポンプ技術大気中から熱を集め、少ない電力で暖房に活用する技術です。化石燃料を燃やすことで熱を得る暖房と比べて、CO2の排出を大きく削減できることが特徴です。ダイキンはこれらの技術を他のエアコンメーカーにも普及することで、世界的なCO2排出量の削減に貢献しています。様々な分野の企業が、自社製品の開発・製造の過程で排出されるCO2の削減に取り組んでいることがわかりましたね。まとめ今回はカーボンニュートラルとSDGsはどのように関連するのか、実際の取り組みにはどのようなものがあるのかご紹介しました。カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを行うことで、SDGs達成にも貢献できることがわかりましたね。実際の企業の取り組みを参考にしつつ、再生可能エネルギーの活用や省エネ化などを意識してカーボンニュートラルに取り組んでみましょう。
「環境問題」 の記事一覧
- 1