みなさんは「ジェンダー平等」という言葉を聞いたことがありますか?ジェンダー平等を簡単に説明すると、性別による差別がない状態のことであり、これはSDGs(持続可能な開発目標)でも目指されています。現在のジェンダー平等の状況には問題があるため、改善に向けて取り組んでいかなければなりません。そこでこの記事では、ジェンダー平等に関して、日本・世界の課題やそれに対する学校・企業・社会それぞれの分野での取り組み事例についてご紹介します。この記事の監修者小田 勝宣(おだ かつのり)第6回SDGs検定取得。SDGsに関連したWebメディア記事執筆やブログの運営など実績多数。大学事務職員時代にSDGsに関する企画立案、運営業務に携わったことからSDGsに興味を持つ。現在はSDGs未来都市に選定された「岩手町」へ移住し、地域おこし協力隊として、地方におけるSDGsの取り組み強化に貢献している。SDGsはジェンダー平等を目指している!SDGsとジェンダー平等には密接な関係があります。女性の社会進出は当然の権利ですが、ジェンダーによる差別や偏見によって十分な機会を得られず、不平等な扱いを受けています。SDGsは世界中にある様々な課題を解決し、全ての人がより良い暮らしを送れる社会を目指しています。そのため、ジェンダー平等の実現はSDGsの達成に欠かせません。ジェンダー平等とは「ジェンダー」は、生物学的な性とは異なる文化的・社会的な性別のことで、社会に定着している先入観で決められた「男らしさ」や「女らしさ」を表します。ジェンダー平等とは、ジェンダーによる差別や偏見がなく、すべての人が平等に機会を得られ、同じように扱われることを意味します。そしてジェンダー平等は、社会や経済に多くのメリットをもたらします。例えば、女性も男性と同じように教育を受け、職業に就けるようになることで、人材の有効活用ができ、企業や経済の成長につながると言われています。また、女性が社会や政治に積極的に参加し、意見を発信することで、多様な価値観が尊重される社会となり、相互理解が深まります。その結果、偏見や差別が減り、社会全体が豊かになる可能性があります。ジェンダー平等は、個人や社会のためだけではなく、世界の持続可能な発展のためにも、非常に重要なテーマです。SDGsでは目標5でジェンダー平等を目指しているSDGs目標5は「ジェンダー平等を実現しよう」という目標です。具体的には、女性の地位向上や女性の権利保護、女性の社会進出の促進、女性と男性の平等な権利と機会の実現を目指しています。また、ジェンダー平等を実現するために、家庭内での家事の役割分担や、男性と女性の賃金格差の是正なども必要です。この目標の意義は、女性の人権・自由・権利を保護するだけでなく、女性が自らの能力を発揮し、社会で活躍できるようにすることです。またジェンダー平等は、男女格差だけでなく、LGBTQ+などセクシャルマイノリティの人々に対する差別や偏見の解消にもつながります。SDGs目標5の達成によって、より多様な人々が平等に活躍できる社会に近づくでしょう。ジェンダー平等の現在の状況は?ジェンダー平等を目指すためには、まず現在の状況と課題を把握することが重要です。そこでSDGsの観点から、ジェンダー平等の現状と課題を日本と世界に分けて紹介します。日本の状況日本では、ジェンダー平等に向けた取り組みが進んでいるものの、まだまだ課題が残っています。経済・教育・政治・健康の4分野で男女の格差を数値化している「ジェンダー・ギャップ指数」の総合順位で、日本は146か国中116位でした(2022年現在)。教育の分野では1位でしたが、政治分野では144位、経済分野では121位と低い順位となっており、政治や経済の分野では、いまだに女性の活躍が少ないとわかります。(出典:男女共同参画局)現在、政治や経済では男性が中心であり、いまだに女性の活躍は少ないと言えます。例えば政界では、衆議院議員463人のうち女性は46人で9.9%、参議院議員242人のうち女性は56人で23.1%、経済界でも上場企業の女性役員の割合は9.1%と低い状態です。(出典:衆議院)(出典:参議院)(出典:男女共同参画局)また、出産・育児の時に女性が休職や退職をした後、育児と両立しづらい労働条件のせいで復職したくても復職できないことがあります。そのため、職場での待遇やキャリアアップにおいて男女で差が生じており、女性の平均賃金が男性の約75%にとどまっていることにも影響しているでしょう。さらに、男性の育休取得率は年々増加しているものの、2021年度で13.97%と女性の85.1%と比べるとまだ低い状態で、女性の復職を難しくしている要因の一つと言えます。(出典:厚生労働省)この差をなくすために、休職後に復帰しやすい制度、育児休暇を男女関係なく取得できる環境を作ることが必要でしょう。政府や企業が積極的に取り組むことで、社会全体の意識が変わっていくことが期待されています。世界の状況世界のジェンダー平等の現状は、国や地域によって異なりますが、おおむね次のような課題があります。女性の教育機会の不平等女性が男性と同様の教育を受けられないことで、将来の社会進出の機会が奪われ、男女で格差が生まれている国もいまだに多くあります。労働市場における女性の待遇の不平等女性は、男性と同じ仕事をしているにもかかわらず、同じ賃金を得られない場合があります。アメリカでは、フルタイムで働く女性の賃金は、同じ労働条件で働く男性と比べて83.1%と低くなっています。(出典:独立行政法人日本貿易振興機構)また、女性が管理職・役職に就くことが難しい場合もあり、キャリアアップにおいても男性と差が生まれています。女性の健康や出産に対するケア体制の不十分女性には、健康上のリスクや出産に伴う負担があるため、適切な医療やケアが必要です。しかし、そのようなサービスが不十分であるため、女性の健康や出産に関する権利が侵害されている地域もあります。SDGsでは、こうしたジェンダー平等の課題に対して理解し、社会全体で取り組んでいくことが求められています。ジェンダー平等への取り組みをご紹介!ジェンダー平等を推進するために、世界各国で様々な取り組みが行われています。ここでは、学校・企業・社会における取り組み事例を日本と世界にわけて紹介します。日本の取り組み事例学校様々な学校で行われている取り組みを項目ごとにご紹介します。ジェンダーレス制服の導入(画像出典:ジェンダーレス制服|トンボ学生服)ジェンダーレス制服とは、性別によるデザインの差を減らし、性別に関係なく着用できるようにすることで、性の多様性に対応する制服のことです。ジェンダーレス制服は、組み合わせを自由化する方法と性差を感じさせないデザインの制服を導入する方法の2つに大きく分かれます。近年増えている方法は、女子のスラックス制服の採用です。ジェンダーに配慮できるうえに、防寒対策や自転車通学用としても利用しやすいことから、学校の先生や女子生徒からも好評のようです。他には、男女共通デザインのブレザー、身体のシルエットが強調されないスラックスなどを採用する学校もあります。学校生活での性別による区別を減らす昔から学校では「男子は君付け、女子はさん付け」と呼称を分けていたり、名簿が男女別になっていることがあります。近年では、先生が生徒に対して必ず「さん付け」で呼ぶことを決めたり、名簿を統一している学校が増えています。また、ランドセルの色も「男の子なら黒」「女の子なら赤」といった分け方は減り、カラーバリエーションが増えたため、子どもが好きな色を選ぶようになっています。このように、性別を基準にしてわけることが減ってきているのです。企業ここでは、ジェンダー平等に向けて取り組んでいる企業を2社ご紹介します。積水ハウス株式会社積水ハウスは、ジェンダー平等を推進するために、女性社員が働きやすい職場を目指したり、性の多様性を尊重したりするなど、様々な取り組みを行っています。例えば、女性社員のキャリア形成や管理職登用を促進するため、研修やメンタリング制度、育児休業・時短勤務などの制度を設けています。さらに同社が行う賃貸事業では、入居申込書類や電子申込フォーム、賃貸借契約書などにおいて、性別欄を削除したり、パートナーの選択肢を設けたりするなどの工夫をしています。これらの書式は、性の多様性に配慮したものであり、セクシャルマイノリティの人々が家を借りやすいようになっています。また、日本におけるLGBT平等法の制定を支持するキャンペーン「ビジネスによるLGBT平等サポート宣言」に賛同しました。これら男女平等への取り組みや性の多様性への配慮が評価され、同社は2022年に「ブルームバーグ男女平等指数(Bloomberg Gender-Equality Index)」において2年連続で優れた企業として選ばれました。この指数は、ジェンダー分野で優れた企業を投資家に紹介するために作られたもので、2022年には世界で418社(うち日本企業12社)が選出されました。(出典:積水ハウス株式会社)楽天グループ株式会社 楽天は、女性社員のキャリア支援や育児・介護支援、セクシャルマイノリティの従業員のサポートをすることで、ジェンダー平等の文化づくりに努めています。育児・介護支援の具体例として、社内託児所の整備、フレックスタイム制や時短勤務、妊娠・育児・介護・怪我・病気を理由とした在宅勤務制度などがあります。そして、2016年からは社内規定で同性パートナーも配偶者とし、慶弔休暇・見舞金といった福利厚生が受けられるようになっています。また楽天は、積水ハウスと同じく「ビジネスによるLGBT平等サポート宣言」にも賛同しています。同社の取り組みが評価され、2021年にセクシャルマイノリティの当事者が働きやすい職場を示す指標である「Work with Pride」で「ゴールド」を6年連続で受賞しました。(出典:楽天グループ株式会社 )社会ここでは、日本の官公庁や自治体で実施されているジェンダー平等の事例を紹介します。内閣府男女共同参画局による法整備内閣府男女共同参画局は、男女共同参画社会の実現に向けて、法制度や施策の策定・推進・評価を行っています。例えば「男女雇用機会均等法」や「女性活躍推進法」などの法律を整備することで、女性の活躍促進や男女不平等の是正に取り組んでいます。また、女性の活躍の「見える化」や男性の家事・育児への参加を呼びかけ、誰もが生きがいをもてる社会づくりを目指しています。自治体による同性パートナーの宣誓・証明制度この制度では、戸籍上同性であるカップルがパートナーとの関係を自治体に届け出ることで、自治体から独自の証明書が発行されます。この制度を利用すると、公営住宅に家族として2人で入居できるようになったり、病院での付き添いや救急車の同乗などが可能になったりします。2015年に東京都渋谷区と世田谷区から始まり、現在では300を超える自治体に広がっています。世界の取り組み事例ここでは日本以外の国で行われている取り組み事例を学校・企業・社会それぞれの分野ごとにいくつか紹介します。学校スウェーデンスウェーデンには、ジェンダー平等を重視する幼児教育施設があります。例えば、絵本やおとぎ話を使うときには、男女の固定観念にとらわれないようにしています。物語の内容は審査をして、同性カップルを登場させるなど筋書きを変更することもあります。また、おもちゃの種類による遊ぶ場所のきまりはなく、男女が一緒に遊べる環境をつくっています。さらに、先生は子どもたちに「彼」や「彼女」といった性別を示す代名詞ではなく、「hen」という中立的な代名詞を使って呼んでいます。これらの取り組みは、子どもたちが自分の性別や性的指向に関係なく、自由に自分らしく生きるように支援することを目的としています。カナダカナダのオンタリオ州では、学校教育において、性別や性的指向への理解を深め、差別や偏見をなくすことを目的とする、ジェンダー・セクシュアリティ教育を義務化しています。2015年から保健体育の授業で導入され、小学校から高校までの間で、性的同意などの性教育の内容から性的指向や性同一性などの多様性に関する内容まで幅広く学んでいます。このカリキュラムは、子どもたちが現代社会における性の問題やリスクに対処するために必要だと考えられました。カリキュラムでは、子どもたちの年齢や発達段階に応じて、適切な内容や方法でジェンダー・セクシュアリティ教育を行うことが求められています。ジェンダー平等やジェンダー多様性に対して若い世代が学ぶことで、自己や他者への理解につなげられます。企業マイクロソフト(Microsoft)社(アメリカ)アメリカのマイクロソフト社は、ジェンダーの多様性を認め、採用・昇進・報酬などの分野でさまざまな施策を実施し、社内のジェンダー平等に関するデータや報告書を毎年公開しています。2022年度の報告書によると、アメリカ国内のマイクロソフト社に勤務する男性の賃金を1.000ドルとしたとき、女性の賃金は1.007ドルでした。(出典:ダイバーシティ&インクルージョンレポート|マイクロソフト社)さらに同社は、女性の教育にも力を入れており、アメリカの大学や専門学校へ進学する女性向けに奨学生を募集しています。また、最新テクノロジーを無料で体験し学習できる、DigiGirlz Campという数日間のキャンプイベントを実施しています。ロレアル(L'Oréal)社(フランス)フランスの化粧品メーカーであるロレアル社は、女性管理職の比率を増やすために、積極的な採用や教育研修、充実した子育て支援策などを行っています。同社の女性比率は、全従業員の69%、取締役会の58%、執行委員会の26%、重要ポジションの54%、国際ブランドディレクターの59%となっています(2020年現在)。(出典:L'Oréal Group)このような取り組みが評価され、2023年3月には、Equileap社のジェンダー平等ランキングでフランス国内で1位、世界で11位に選ばれました。(出典:L'Oréal finance)また、セクシャルマイノリティのコミュニティを支援しており、性自認に基づく差別を拒否することを明記した従業員の人権方針があります。社会アイスランドアイスランドでは、男女の同一労働同一賃金を義務付けており、25人以上の従業員がいる企業や組織は、監査団体によって男女同一賃金であることが証明される必要があります。証明がない場合は1日につき50,000 アイスランド・クローナ(約48,000円)の罰金が課せられます。このような取り組みにより、女性に対する不当な給与格差の解消を目指しています。(出典:Equal Pay Legislation in Iceland|Radnica)インドインドでは、女性の地位向上を目指し、村落に「自助グループ(Self Help Group)」が設置されています。これは、女性が集まる自助グループが、金融機関と協力して貯蓄や融資などの金融活動を行い、経済的に自立することで、女性の社会進出を支援する制度です。グループの貯蓄は、メンバーが突然病気になったときなどに使われる緊急基金としても機能しており、不安を減らすことで生活の安定にも貢献しています。この取り組みによって女性の貧困状態をなくすことで、ジェンダー平等を目指しています。SDGs活動に興味がある方は「Socialgoo」がおすすめここまでSDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の課題や取り組みについてご紹介しました。この記事をきっかけに、SDGsについて興味を持たれた方には「Socialgoo」がおすすめです!ソーシャルグッド(社会にとって良いサービスや活動)に特化したメディアであり、取り組み事例などSDGsにまつわる様々な情報を発信しています。ぜひ他の記事もチェックしてみてくださいね!まとめジェンダー平等の実現は、社会や経済に大きなメリットがあると分かっています。SDGsでは目標5でジェンダー平等を目指しており、課題を解決するために様々な分野で取り組みが進められています。学校・企業が取り組むだけではなく、私たち個人でも取り組めることがあります。例えば、ジェンダーによる偏見に注意を払うことや家事や子育てなどの分担を平等にすることなどです。ジェンダー平等は、私たち一人ひとりの意識と行動によって実現されるため、ジェンダー平等の重要性を再確認し、自分にできることを考えてみましょう。
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